中国古代の宮廷文化には、様々な願いや意味が込められた言葉があります。今回ご紹介する「椒房」もその一つです。
椒房とは
椒房は、文字通りには「山椒の部屋」を意味します。
- 椒(jiāo)= 山椒(shān jiāo)
- 房(fáng)= 部屋、房间(fáng jiān)
「椒房宮」といえば、后妃たちが集まるための宮殿を指します。
なぜ「山椒の部屋」なのか?
山椒の実は細かい茎にびっしりとついています。この実の多さにあやかり、皇子が多く産まれるようにという願いが込められて名付けられました。
また、山椒には邪気を払う力があると考えられていたため、后妃の部屋の壁に山椒を塗り込めたり、庭に植えたりする習慣がありました。
杜甫『麗人行』における椒房
中国盛唐の詩人・杜甫の詩『麗人行(lì rén xíng)』では、「椒房」は「后妃(hòu fēi)」、特に楊貴妃を意味する言葉として使われています。
詩の一節
就中雲幕椒房親
jiù zhōng yún mù jiāo fáng qīn
高い雲のように幾重にも張られた幕の中にいる椒房(楊貴妃)の親族
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賜名大國虢与秦
cì míng dà guó guó yǔ qín
虢国夫人、秦国夫人という名前を賜りました
この詩で杜甫は、楊貴妃の一族が権力を握り、栄華を極める様子を描きながら、楊一族を批判しています。皇帝の寵愛を受けた楊貴妃の姉妹たちが、国夫人という高い称号を賜り、贅沢な暮らしをしていた当時の状況が浮かび上がります。
まとめ
「椒房」という言葉一つにも、子孫繁栄への願い、邪気払いの信仰、そして后妃の権力といった、多層的な意味が込められています。杜甫の詩を通して見る椒房は、華やかな宮廷生活の裏にある政治的な緊張をも物語っているのです。
中国古典文学を読む際、こうした言葉の背景を知ることで、より深い理解と鑑賞ができるのではないでしょうか。