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回鶻(かいこつ/ウイグル)の歴史——交易で栄えた、異色の遊牧帝国

> ※この記事は、新しい連作「草原の帝国」シリーズの起点です。これまで遼(契丹)を深く掘ってきましたが、契丹もまた、突厥・回鶻と続く草原の帝国の系譜の一員でした。その流れを上流からたどるために、まず回鶻(ウイグル)から始めます。

回鶻は、遊牧国家としては異例の「交易で栄えた国」。その知恵は、のちの蕭燕燕の外交(→「[澶淵の盟と蕭燕燕の中央集権]」)とも、深く響き合います。

はじめに——草原の覇者となった一部族

中央アジアの草原には、古くから多くの遊牧民が活動していました。なかでも注目すべきが、のちに回鶻(かいこつ/ウイグル)として知られる人々です。彼らは鉄勒(てつろく)という部族連合の一部として歴史に登場し、やがて草原の覇者へと昇りつめます。

鉄勒——「高車」とも呼ばれた部族連合

回鶻の源流は、北方の遊牧集団丁零(ていれい)にさかのぼり、のちに鉄勒と総称される多くの部族の連合でした。鉄勒は、その大きな車輪の荷車を使ったことから「高車(こうしゃ)」とも呼ばれます。

> 名前の訂正をひとつ この時代の部族名は、漢字の音訳のため、資料によって表記が乱れがちです。回鶻の前身となる部族は袁紇(えんこつ)(のちの回紇)と書くのが正確で、「袁河」などの表記は誤り。また、ライバルの大部族は薛延陀(せつえんだ)で、「雪竇」などではありません。本記事では、正しい漢字に整えて記します。

鉄勒は十五ほどの部族からなり、そのなかの一つが、袁紇——すなわち、のちの回鶻でした。当初、彼らは突厥(テュルク)可汗国の支配下にありました。

唐との出会い——薛延陀を倒す

七世紀、鉄勒諸部はしばしば突厥の圧政に抗して立ち上がります。やがて草原の主導権は、鉄勒最大の勢力薛延陀へと移りました。

転機は646年。回紇の指導者吐迷度(とめいど)が、唐と協力して薛延陀を攻め滅ぼしたのです。

これにより回紇は唐の管轄を受け入れ、唐は草原に六府七州を置いて統治機構を整えました。回紇と唐の、長い結びつきの始まりでした。

ウイグル可汗国の成立(744年)

そして744年、回鶻史で最も重要な出来事が起こります。回紇の指導者骨力裴羅(こつりきはいら)が、カルルクらと結んで後突厥を打ち倒し、自ら可汗を称してウイグル可汗国を建てたのです。唐は彼に「懐仁可汗(かいじんかがん)」の称号を与えました。

> 「沛羅」という表記を見かけますが、建国者の名は骨力裴羅が正確です。

その領土は広大でした。東はアルグン川、西はイリ川流域、北はアルタイ山脈、南は砂漠の彼方まで。草原に、巨大な遊牧帝国が出現したのです。

唐との特別な関係——略奪より、交易

ウイグル可汗国は、ほかの遊牧国家とは際立って違う特徴を持っていました。多くの遊牧国家が農耕地帯への略奪を主としたのに対し、ウイグルは唐と一貫して良好な関係を築いたのです。

その象徴が、安史の乱(755〜763年)でした。唐が深刻な内乱に陥ると、ウイグルは唐を支援し、乱の鎮圧に大きな役割を果たします(この時の可汗が、次の記事の主役・[葛勒可汗]です)。略奪する相手から、助けに来る同盟者へ——草原の遊牧国家としては、まことに異例の立ち位置でした。

私の見立て——「交易する遊牧民」という知恵

回鶻のいちばん面白いところは、目先の略奪より、長期の交易を選んだことです。唐の絹と自国の馬を交換し、それをシルクロードで西へ売りさばいて、莫大な富を得る。一度の略奪で奪える物より、続く交易で得られる物のほうが、はるかに大きい——この冷静な計算こそ、回鶻を草原の覇者に押し上げました。

これは、このシリーズで何度も出会ってきたrealist(現実主義者)の知性です。

秦の[尉繚]が「勇や天命でなく、計算で勝つ」と言い、遼の[蕭燕燕]が「勝てない戦争はせず、和平と交易で国を富ませた」(→「[蕭燕燕の大博打]」)

——回鶻もまた、その系譜にいます。草原の帝国は、馬の速さだけでなく、算盤の確かさで栄えた。そう読むと、遊牧民のイメージが、ぐっと立体的になってきます。

おわりに——そして、草原の覇権は移ろう

回鶻の繁栄も、永遠ではありませんでした。840年、ウイグル可汗国は北方のキルギスに攻め滅ぼされ、人々は南や西へと散っていきます(その富の都の運命は→「[可敦城の興亡]」)。やがて草原の覇権は、別の遊牧民——契丹(遼)へと移っていきます。

突厥、回鶻、そして契丹。草原の帝国は、滅びては次が立つ、長いリレーでした。回鶻はそのバトンの、重要な一区間。次の記事では、その回鶻を強国に押し上げた策略家・[葛勒可汗]を見ていきましょう。

◀ 草原の帝国シリーズ:[冒頓単于(匈奴)] | [突厥(回紇が倒した先代帝国)] | [葛勒可汗(ウイグルを強国にした策略家)] | [可敦城の興亡(遼へ続く都)]
◀ 遼(契丹)シリーズへ:[遼で読む征服王朝(入門・ハブ)] | [澶淵の盟と蕭燕燕の中央集権]
◀ テーマでつながる:[尉繚(計算で勝つ)]

 

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