中国の歴史ドラマ『ミーユエ』の19話では、秦の後宮を舞台に複雑な政治劇が展開されます。
この回では、黄河流域の各国から送られてきた夫人たちが登場し、
それぞれの出身国の歴史的背景が巧妙に物語に織り込まれています。
秦の後宮位階制度
まず、秦の後宮の位階制度について理解しておく必要があります:
王后 > 夫人(8名)> 美人 > 良人 > 八子 > 七子 > 長使 > 少使
この厳格な階級制度の中で、各国から送られてきた女性たちが生き抜いていく様子が描かれています。
登場する夫人たちとその歴史的背景
唐夫人(táng fū rén)
歴史的背景: 唐は春秋時代の諸侯国で、後に晋と改名され、最終的に魏によって滅ぼされました。
物語での描写: 魏から来た先代王后にいじめられ、自殺を図るほど追い詰められています。
静かでおとなしい性格ながらも、魏琰の策略に対して皮肉を込めた反応を見せます。
しかし、秦が魏を滅ぼすと状況が逆転し、
今度は魏の夫人に対して冷たい態度を取るようになります。
この変化は、歴史上の「唐(晋)→魏に滅ぼされる→秦が魏を滅ぼす」
という流れを後宮の人間関係で巧妙に表現したものです。
衛良人(wèi liáng rén)
歴史的背景: 衛は周代から戦国時代の諸侯国で、殷墟のある黄河中心地の小国でした。
巧妙な外交によって秦の始皇帝の時代まで存続した国です。
物語での描写: その歴史を反映するかのように、頭脳明晰な策謀家として描かれています。
強大な魏と楚の間でバランスを取り、自分の弱い立場を理解しながら、
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誰からも恨まれないよう巧みに立ち回る姿が印象的です。
諸外国出身の夫人たちの間を器用に泳ぎ回り、恵文王なき後も後宮で生き残ることに成功します。
これは実際の衛国が小国でありながらも優れた外交術によって長期間存続したことと見事に重なります。
虢美人(guó měi rén)
歴史的背景: 虢は陕西省宝鶏の東にあった周王朝の臣下国でした。
物語での描写: 周から送られてきた絶世の美女として登場し、王の寵愛を受けて王子まで産みます。
周王朝の長い歴史を背景に持つため、他の夫人たちに対して威張った態度を取りますが、
その一方で周王朝のようにあさはかな面も持っています。
最終的に魏琰の計略に巻き込まれ、
自殺未遂を図る際に誤って命を落としてしまうという悲劇的な運命を辿ります。
樊少使(fán shǎo shǐ)
歴史的背景: 樊は西安付近にあった周の諸侯国でしたが、虢によって討伐され、
その後晋、最終的に魏の領土となりました。
物語での描写: 魏から送られてきた存在として、常にバカにされる立場にあります。
魏長使や虢美人に頭が上がらず、厳しい状況に置かれている様子が描かれています。
歴史と物語の巧妙な融合
この19話の最も興味深い点は、各夫人の出身国の歴史的な盛衰や関係性が、
後宮での彼女たちの立場や性格設定、そして運命の変化に見事に反映されていることです。
特に注目すべきは、歴史上の国家間の征服関係が後宮の人間関係の変化として描かれている点です。
例えば唐夫人の場合:
- 歴史: 唐(晋)が魏に滅ぼされる → 秦が魏を滅ぼす
- 後宮: 魏の夫人にいじめられる → 秦が強くなると魏の夫人に冷たい態度
このような対応関係により、単なる後宮の権力闘争が、より深い歴史的文脈を持った物語として展開されています:
- 滅ぼされた国(唐)出身の夫人は最初弱い立場だが、後に復讐の機会を得る
- 外交に長けた国(衛)出身の夫人は策謀家として、王の死後も生き残る
- 古い歴史を持つ国(虢)出身の夫人は威張っているが浅はかな美女として
- 他国に征服された国(樊)出身の夫人は下位の地位に