法と忠義の狭間で
蘇義簡は将来の宋のため、法に基づいた処刑を自ら望んでいた。
彼の命を救おうと劉娥(皇太后)は必死に手段を探したが、有効な方法は見つからなかった。
時代が求める正義と、一人の人間への情が交錯する中で、二人は最後の時を迎えようとしていた。
牢獄での再会
劉娥は蘇義簡のために絹の上着を自ら縫い、彼のいる牢を訪れた。
そこで蘇義簡は一つの文字を書きかけていた。「執」という字を。
紙の上には「幸」の横に「九」と書かれており、蘇義簡はその続きで手を止めていた。
劉娥はその書きかけの字を見つめ、静かに尋ねた。 「この字のために孤独を貫いたの?」
「執」という字の深い意味
「執」という字には三つの意味がある:
- (手に)握る、掌握する
- 堅持する
- 実行する、執行する
蘇義簡が生涯をかけて「執」したもの。
それは信念であり、使命であり、そして皇太后への変わらぬ忠義だった。
最後の幸せ
皇太后お手製の服を着た蘇義簡は喜びを隠さなかった。
「皇太后お手製の服を着られるとは、これ以上の幸せはありません」
劉娥が入れた茶を飲みながら、彼は続けた。
「再び皇太后のお茶をいただけるとは、思いもよりませんでした。死んでも悔いは無い」
文字に込められた深い象徴
そして蘇義簡は、「九」に思いを込めて点を打ち、「丸」にして「執」の字を完成させた。
「幸」「九」「丸」
この三つの文字が織りなす物語は深い:
- 「幸」 – 手枷を意味する。束縛されながらも、その中に見出す幸せ
- 「九」 – 行き詰まりを意味する象形文字。屈曲して折れ曲がり尽きる様子
- 「丸」 – 人がひざまずいて両手をそろえて前に出している様子。恭しく受け取る姿勢
行き詰まりから解放への転換
蘇義簡の人生は「九」(行き詰まり)で終わることはなかった。
彼は「丸」(恭しく受け取る)へと昇華させた。
屈曲して折れ曲がった人生ではなく、幸せを恭しく受け取った人生として完結させたのである。
孤独ではなかった生涯
最後に蘇義簡は静かに語った:
「今日まで強い想いがありました。
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それは皇太后のため朝廷を整えなおすことです。
そうすれば陛下に天下安泰の宋を残せます。
ゆえに私の生涯は孤独ではなかった。この人生で、皇太后にお会いできて、私は幸せでした。」
そう言い残し、彼は刑場に消えていった。
真の幸せとは何か
蘇義簡の物語は、私たちに深い問いを投げかける。
人生の意味とは何か。真の幸せとは何か。
彼にとって、それは自分の信念を「執」し続けることであり、
大切な人のために生きることだった。
たとえ手枷(幸)をはめられ、行き詰まり(九)に直面しても、
その全てを恭しく受け取る(丸)ことで、人生に深い意味を見出したのである。
一つの漢字「執」に込められた、一人の男性の生涯。
それは孤独ではなく、愛と忠義に満ちた、真に幸せな人生だったのかもしれない。
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