玉器とは何か:厳格に管理された身分の象徴
古代中国では、玉器を使用する資格は統治者に限られていました。玉器は権力者の身分を示す重要な象徴であり、その所有と使用は厳格に管理されていたのです。
玉器にはさまざまな形状がありましたが、それぞれに固有の意味と用途がありました。今回は、その中でも特に重要な「圭(グイ)」と「璧(ヘキ)」という二つの玉器について詳しく見ていきましょう。
圭は世俗的な権力を、璧は神聖な祭祀権を象徴する――この二つの玉器によって、古代中国の統治者は完全な支配権を可視化していたのです。
圭(グイ):世俗的権力の象徴
圭が表すもの:統治者の権力
「圭」という玉器は、上部が丸く、下部が四角い形をしており、これは統治者の世俗的な権力と権威を象徴していました。
圭は太陽の影を測るために使われた古代の道具でした。
この天文観測との結びつきが、圭を権力のシンボルとして特別な意味を与えていたのです
。農耕社会では季節を正確に把握することが国の存続に直結していたため、
天文観測ができる者=統治者としての資格を持つ者、という図式が成り立っていました。
つまり、圭を持つということは、暦を制定し、農事を指導し、人民を統治する世俗的な権力を持つ証だったのです。
「圭臬」:刑法裁判権の象徴
「圭」は「臬(ニエ)」という文字と組み合わされて「圭臬(けいげつ)」という熟語になることが多く、これは社会の規範や法の基準を表しました。
ここで重要なのは、「臬(niè)」という文字が刑法裁判権を表しているということです。
元々「臬」は弓矢の的を意味していましたが、やがて太陽の影を測るための基準として使われるようになりました。
そしてさらに、刑法を執行し、裁判を行う権限を表す文字へと発展したのです。
つまり「圭臬」という言葉は、単なる「規範」や「基準」という抽象的な意味だけでなく、
具体的な刑法裁判権という統治者の実権を表していたのです。
圭が象徴する権力の全体像
圭が象徴していた世俗的権力は、次のような要素を含んでいました:
- 暦法の制定権:天文観測により季節を定め、農事を指導する権利
- 刑法裁判権:法を定め、罪を裁き、刑罰を執行する権利
- 行政統治権:人民を統治し、国家を運営する権利
これらすべてが圭という一つの玉器に凝縮されていたのです。
圭を持つ者は、法を作り、裁きを下し、刑を執行する完全な世俗的権力を持つ――これが古代中国における圭の本質的な意味でした。
圭の役割:権力の正統性を示す
諸侯が天子に謁見する際、あるいは外交使節が他国を訪れる際に携えたのも圭でした。
圭を持つことで、その人物が正統な権力の代表者であり、刑法裁判権を含む世俗的統治権を持つ者であることを示したのです。
話は変わりますが、
漫画の閻魔様が平べったい板のようなものをもっているのが幼い頃私は不思議でたまりませんでした。
あれでぺちぺちとたたくのだろうかと思っていましたが、
台北の故宮博物院で漫画の閻魔様がもっていた板とそっくりな玉圭をみつけました。
写真をとってアイキャッチ画像にしました。
閻魔様は、裁きを下し、刑を執行する権利をもっていたのですね
璧(ヘキ):神聖な祭祀権の象徴
璧が表すもの:天を祀る権利
璧は円盤状の玉器で、中心に円孔を持つのが特徴です。この円形は天を象徴し、中央の孔は天地をつなぐ通路を表していると考えられています。
**璧は圭とは異なり、神聖な祭祀権を象徴する玉器でした。**つまり、天地と交信し、神々に祭祀を行う資格を示すものだったのです。
広告
周代の祭祀体系における璧の役割
周代に至り、璧は礼法で天を祀る最高位の玉器として規定されました。『周礼』の太政大臣の項には、次のような記載があります。
「天地と四方を祀るために六つの玉器が作られた」
- 青緑の玉盤(蒼璧)は天を祀る
- 黄の玉の琮は地を祀る
- 緑玉の圭は東を祀る
- 赤玉の璋は南を祀る
- 白玉の琥は西を祀る
- 黒玉の璜は北を祀る
この体系の中で、**璧は天を祀る玉器として最も重要な位置を占めていました。
**天は古代中国において最高の存在であり、天を祀る権利を持つということは、
天命を受けた統治者である証でもあったのです。
璧が神聖な祭祀権を象徴するものであると同時に、天子こそが天を祀る最高の権限を持つ存在であることを示しています。
璧の役割:天命の正統性を示す
璧は日月を象徴する祭器として、祭礼用の玉器のうち最も重要なものとされました。春秋戦国時代や漢代においても装飾性を加えて盛んに用いられたのです。
璧を持ち、天を祀ることができる者だけが、真の統治者たる資格を持つ――これが古代中国の政治思想の核心でした。
現代に残る璧の言葉
璧は優れたものを意味する熟語としても使われています。
- 「双璧」:優劣をつけられない二つのすぐれたもの
- 「完璧」:欠点や不足がなく、非常に立派なこと
- 「白璧」:非常に優れたもの
これらの言葉は、璧が持っていた完全性と高貴さのイメージを今に伝えています。私たちが日常的に使う「完璧」という言葉が、実は天を祀る神聖な玉器に由来していることを知ると、言葉の重みが違って感じられるのではないでしょうか。
圭と璧:二つの玉器による完全な支配
古代中国の統治者が真の支配者として君臨するためには、圭と璧の両方を持つ必要がありました。
圭は世俗的な権力――暦を制定し、法を定め、裁判を行い、刑罰を執行する権利を表しました。特に「臬」が刑法裁判権を表すことから、圭は統治者が人民の生殺与奪の権を握っていることの証でもありました。
璧は神聖な祭祀権――天地と交信し、神々に祭祀を捧げ、天命を受ける権利を表しました。天を祀ることで統治の正統性を天から授かる、精神的・宗教的な権威の象徴です。
この二つを併せ持つことで、統治者は地上における完全な支配権を確立したのです。
圭によって人を裁き、璧によって天命を受ける――この二つの権力が統合されてはじめて、完全な統治者が誕生するのです。
玉器によって目に見えないものを可視化する
古代中国の玉器は、単なる装飾品や道具ではなく、統治者の権威、宇宙観、そして社会の規範を体現する神聖な存在でした。
**圭は世俗的権力の象徴として、特に刑法裁判権を含む統治権を表し、璧は神聖な祭祀権の象徴として天命を受ける資格を表しました。**これらの玉器を通じて、古代中国人は目に見えない社会的な階層と儀礼の体系を構築していったのです。
権力、刑法裁判権、祭祀権、宇宙観、社会秩序――これらはすべて抽象的な概念です。しかし古代中国の人々は、玉という美しく永遠性を感じさせる素材に特定の形を与えることで、これらの抽象概念を具体的な「モノ」として表現しました。
**圭を手に取ることで、統治者は法を定め、裁きを下し、刑を執行する権力を実感しました。璧を天に捧げることで、統治者は天命を受けた正統な支配者であることを確信しました。**そしてこの二つの玉器を併せ持つことで、完全な統治権を可視化したのです。
数千年前の古代中国において、玉という天然の美しい石に意味を込め、形を与え、それによって世俗的権力(特に刑法裁判権)と神聖な祭祀権という目に見えない二つの支配権を明確に区別し、同時に統合していたという事実は、人類の知恵の深さを感じさせてくれます。



