青桜から如懿への転身が示すもの
『紫禁城に散る宿命の王妃』第4話で描かれる青桜の改名は、
単なる名前の変更以上の深い意味を持っています。
祜禄(ニオフル)氏と先帝皇后・烏拉那拉氏の姪である青桜が、
のちの乾隆帝との複雑な人間関係を良好にするため、
自らの名を捨てて生まれ変わりを望んだとき、皇太后から与えられた「如懿」という名前には、
このドラマ全体を貫く悲劇の運命が既に暗示されていたのです。
「懿」という文字に込められた深い意味
「懿」という文字の表面的な意味は「美しい」であり、
美徳の高貴さと善良さを表します。
しかし、この文字をさらに深く分析すると、より複雑な構造が見えてきます。
「懿」は「壹」「欠」「心」の三つの部分から構成されています:
- 「壹」: 献身を表し、音から「一」も連想される
- 「欠」: 感嘆や賞賛すべきという意味を持ち、「次」も連想される
- 「心」: 内面的な美しさや徳、感動や心の動きを現す
この分解により、「懿」は「一次の心」とも解釈できるのです。
「如懿」に込められた二つの結婚観
「如」は「〜に匹敵する、に近づく」という意味を持ちます。
「如懿」と組み合わせると「善を追求する」または「善に近づく」と解釈できますが、
上記の分解を用いると「一次の心」という解釈も可能になります。
この名前を聞いたとき、乾隆帝と如懿はそれぞれ異なる解釈を抱いていました:
乾隆帝の解釈: 一次心意动(生涯において一度自分の心が特定の対象によって動かされる)
これは短期的な情動であり、情熱や衝動と同じものでした
。彼の生涯にわたる多くの女性との結婚が、この結婚観をよく物語っています。
如懿の解釈: 一生一次心意动(生涯にわたって感情的なつながりを保つ)
「一生に一度の心の動き」として、生涯を通じた深い絆を求めていました。
「如意」との対比が示す運命の皮肉
興味深いことに、改名に先立って乾隆帝は青桜に如意結びと牆頭馬上の楽譜を渡しています。
「如意」は中国語で「思いのままに」という意味で、すべてが思い通りになることを表します。
また、「牆頭馬上」は唐代の白居易の詩に由来し、
男女の一目惚れ、瞬間的な心情やロマンチックな出会いを歌ったものです。
乾隆帝が青桜に感じていたのは、
まさにこのような瞬間的でロマンチックな心の動きだったのでしょう。
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結婚を「包囲された城」として捉える悲劇
中国には「婚姻围城」(結婚とは包囲された城である)ということわざがあります:
城の外にいる者は城に入りたがり、城の中にいる者は城から逃げ出したいと思っている
結婚前は結婚を安住の地と見なしますが、
結婚後は日々の雑事が情熱をすり減らし、責任の重圧から逃げ出したくなるものです。
真の結婚の完成は稀であり、
それを達成するためには定期的なコミュニケーションと相互成長を通じて、
互いに感情的なつながりを維持することが不可欠です。
ヒロイン如懿の最終的な決断
如懿は結婚の本質を理解し、そのための努力を続けましたが、
乾隆帝の結婚観(一時の情動)との根本的な矛盾によって、
このドラマは悲劇に終わることになります。
しかし、如懿の真の勇気は最後の決断にありました。
当時の社会では結婚制度は女性にとってセーフティネットであると同時に、
個人を制約する網でもありました。
如懿は最終的に「結婚」を人生における唯一の拠り所としない道を選択したのです。
これは単なる恋愛の敗北ではなく、
女性としての自立と尊厳を守り抜いた勝利として解釈できるのではないでしょうか。
「如懿」という名前に込められた運命的な対立は、最後まで貫かれることになったのです。