中国宮廷ドラマ『宮廷の諍い女』で印象的な脇役として登場する敬妃と端妃。
実は、この二人のキャラクターは同じ歴史上の人物をモデルとして創作されていることをご存知でしょうか。
歴史と創作の狭間で
ドラマでは雍正帝の重要な妃として描かれる敬妃と端妃ですが、
興味深いことに、どちらも歴史上に直接対応する人物は存在しません。
敬妃については記録が見つからず、
端妃に至っては「斉」という姓を持つ雍正帝の妃も、
「端」という称号を持つ妃も実際には存在していませんでした。
共通のモデル:純懿皇貴妃耿氏
両キャラクターの原型となったのは、雍正帝の純懿皇貴妃耿氏(1689年~1784年)です。
中堅官吏の家に生まれ、非常に聡明だった耿氏は第五皇子弘昼を産み、
母子ともに雍正帝から深く愛されました。
96歳という当時としては驚異的な長寿を全うし、高貴妃として葬られ、裕太妃とも呼ばれました。
満州語に込められた意味
敬妃の「敬」(ginggun)
満州語で「尊敬」と「謙虚」を意味するこの言葉は、
上品でおおらか、穏やかで親切、凛として温和、貞淑で物静か、
そして知的という特質を表現しています。
ドラマの敬妃のキャラクターは、まさにこれらの意味に沿って造形されています。
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端妃の「端」(tobu)
満州語で「直立」を意味し、威厳と安定を象徴します。
物語でも端妃は知的で威厳のあるキャラクターとして描かれており、
この語源と見事に呼応しています。
一人の女性の多面性を二つのキャラクターで
純懿皇貴妃耿氏の謚号「純懿」は満州語で「gulu fujurungga」、
「清らかで威厳がある」という意味を持ちます。
また「裕」は満州語で「fulu」、「富裕」で「広い心」を意味します。
制作陣は、この一人の魅力的な女性が持っていた多面性を、
敬妃と端妃という二つの異なるキャラクターに分割して表現したのでしょう。
穏やかで謙虚な側面を敬妃に、
威厳と知性の側面を端妃に託し、
それぞれの満州語の称号に込められた意味を巧みに活用しています。
ドラマ創作の妙技
歴史ドラマにおいて、一人の実在人物の複雑な人格を複数のキャラクターに分散させることで、
物語により豊かな層を与える手法は珍しくありません。
『宮廷の諍い女』の敬妃と端妃の設定は、
満州語の語源研究と歴史考証を組み合わせた、制作陣の深い洞察力を示す好例といえるでしょう。