はじめに：漫画と史実のギャップ
人気漫画『キングダム』で王騎将軍の副官として登場し、「ファルファル」の掛け声で人気を博している騰（とう）。
六大将軍にまで上り詰めた彼は、実は史実に実在した人物をモデルにしています。
しかし、史実の騰の正体には2つの説があり、その真の功績は漫画以上に興味深いものでした。
この記事では、キングダムの騰が史実の誰なのか、そして彼の驚くべき実績を詳しく解説します。
キングダムの騰とは？
王騎の副官から六大将軍へ
漫画『キングダム』における騰は：
- 王騎将軍の長年の副官として登場
- 王騎の死後、王騎軍を引き継ぐ
- 剣術の達人として圧倒的な戦闘能力を持つ
- 新・六大将軍の一人に任命される
- 独特の「ファルファル」という擬音が特徴
王騎に「自分に引けを取らない」と言わせるほどの実力者として描かれています。
史実の騰は「内史騰」として記録されている
「内史騰」という名前の意味
史書『史記』には**「内史騰（ないしとう）」**という名で記録されています。
重要なポイント：
- 「内史」は官職名（首都近郊を統治する役職）
- 本名の姓は不明
- 一説には姓を「辛（しん）」とする説もある
つまり、「騰」は名前で、「内史」は彼が務めた役職ということになります。
史実における内史騰の2つの説
内史騰の出自や活躍については、史料によって2つの異なる解釈が存在します。
【説1】元韓国の官僚が秦に降伏した説
この説によると、内史騰は：
背景
- 紀元前231年、秦は韓国に対して「中央突破、近から遠へ」の戦略を実施
- 韓国は七国の中で最も弱体化していた
内史騰の行動
- 元々韓国の南陽郡守だった騰が自発的に秦に降伏
- 南陽の地（現在の河南省太行山脈南側・黄河以北地域）を秦に献上
- 秦王政（後の始皇帝）は騰を南陽守代理に任命
降伏の理由
- 秦のスパイ工作：姚賈らのスパイ網により策反され、韓国上層部に潜伏
- 利益交換：秦から南郡守や内史などの要職と厚い封賞を約束された
- 国力の格差：韓国の滅亡は時間の問題と判断し、個人の出世を選んだ
- 韓王安の無能：治国能力がなく、臣下は次々と離反
つまり、戦略的な寝返りにより秦に重用された人物という解釈です。
【説2】秦の優秀な軍事・行政官僚説
こちらの説では、内史騰は：
基本プロフィール
- 別名：寧騰
- 戦国時代末期の秦において軍事と行政の両面で才能を発揮した重臣
- 南陽守代理、南郡守、京畿内史を歴任
- 秦の三大戦略要地を統括した人物
内史騰の軍事における最大の功績
韓滅亡作戦の総大将
紀元前230年、内史騰は秦軍を率いて韓国を攻撃。
戦果
- 韓の首都**新鄭（しんてい）**を攻略
- 韓王安を捕虜とする
- これにより韓国は滅亡
- 秦は潁川郡を設置
これが秦による六国統一の序幕となりました。
楚滅亡作戦への貢献
南郡駐屯時の功績：
- 防御体系を構築
- 楚滅亡作戦に60%の兵糧と**13%の兵力（約8万兵）**を供給
- 後方支援の要として60万の秦軍が長期戦を継続する基盤を築いた
内史騰の驚くべき行政改革
内史騰の真の偉大さは、軍事だけでなく行政面での革新にありました。
法治体系の構築
『為吏之道（いりのみち）』の公布
官吏の行動規範として：
「五善」（官吏の理想像）
- 公正
- 廉潔
- 忠信
- 善意
- 勤政
「五失」（禁止事項）
- 汚職
- 職権乱用
- その他の不正行為
政策の影響力
**雲夢秦簡（すいこちしんかん）**という考古学的発見により：
広告
- この政策が末端官吏によって統治の手引書とみなされていたことが判明
- 重要な文書だったため、副葬品として墓に埋葬されるほどだった
法律執行の厳格化
『語書』による成果：
- 官吏の腐敗率を37%から9%に低下させた
- 地方の豪族勢力を効果的に抑制
民生と後方支援の改革
人口と農業管理
紀元前230年～紀元前221年の間：
- 戸籍登録制度を実施
- 南郡の人口を30万人から50万人に増加
- 水利施設を修復し農業生産力を向上
- 楚討伐戦に毎日3000トンの食糧を輸送（総量の60%を占める）
後方支援システムの専門化
- 烽火警報システムを構築
- 食糧輸送路を保護
- 前線への持続的補給を確保
文化融合戦略
「軍事的圧制」と「文化的浸透」を組み合わせた統治：
- 秦法によって現地住民を同化
- 反乱頻度を年平均12回から3回に減少
内史騰の歴史的評価
複合型人材としての卓越性
内史騰の特徴：
- 抜群の兵站統括能力と軍事実行力を兼ね備える
- 秦始皇帝から長期間にわたり軍政の要職を委ねられた
- 王翦のように「田宅を求めて」身を守る必要がなかったほどの信頼
秦帝国の基盤を作った人物
内史騰の改革は：
- 南郡を安定させただけでなく
- 楚滅亡戦役における**「隠れた原動力」**となった
- その法治と兵站システムは秦の統一を持続可能な形で支えた
- 秦帝国郡県制のモデルとなった
内史騰の戦略は「秦法と現地の風俗を織り交ぜた網目」と評されています。
キングダムと史実の違い
漫画の脚色
『キングダム』での設定（創作）：
- 王騎将軍の副官という設定
- 「ファルファル」という独特の擬音
- 剣術の達人としての描写
- ユーモラスな言動
史実との違い：
- 史実では王騎との関係は不明
- 実際は軍事よりも行政面での功績が顕著
- 法治改革者としての側面が強い
漫画は「説2」に沿っている
『キングダム』の騰のキャラクター設定は、秦の優秀な軍事・行政官僚という説2の解釈に基づいていると考えられます。
内史騰のその後と最期
史料に残る最後の記録
紀元前221年：秦の天下統一後、内史に任命されたことが最後の記録
最期は不明
- 戦死した記録はない
- 病死または寿命で亡くなったと推測される
- 秦の統一を見届けた後、歴史から姿を消す
まとめ：漫画以上に偉大だった史実の騰
内史騰の真の功績
- 韓滅亡：秦の六国統一の序幕を開いた
- 行政改革：法治システムを確立し、官吏の腐敗を激減させた
- 後方支援：楚滅亡作戦の兵站を担い、60万の軍を支えた
- 文化融合：秦法による統治モデルを確立し、帝国の基盤を作った
『キングダム』では今後どう描かれる？
史実に基づけば：
- 韓滅亡作戦の総大将として大きな見せ場がある
- 六大将軍としてさらなる活躍が期待される
- 最終的には戦死せず生き残る可能性が高い
おわりに
漫画『キングダム』で「ファルファル」という掛け声で親しまれている騰。
しかし、史実の内史騰は、単なる武将ではなく、軍事・行政・後方支援のすべてで才能を発揮した傑物でした。
その功績は、秦の天下統一を支える**「隠れた原動力」**となり、後世の帝国の基盤を築いたのです。
この記事のポイント
✅ 騰は史実で「内史騰」として実在した
✅ 出自には「元韓国官僚の降伏説」と「秦の優秀な官僚説」の2つがある
✅ 韓滅亡の立役者として秦の統一の序幕を開いた
✅ 法治改革により官吏の腐敗を激減させた
✅ 楚滅亡作戦で60%の兵糧を供給する後方支援の要だった
✅ 秦帝国郡県制のモデルを確立した
✅ 漫画の「王騎の副官」設定は創作
✅ 史実では戦死せず、天下統一後も生き残った
