甄姓について
甄姓（ゼン）は中国の古い姓の一つで、その起源は五帝時代まで遡ります。舜帝の子孫とされ、非常に歴史のある名門の姓です。現在、中国大陸では約35万人がこの姓を名乗っており、総人口の約0.028％を占めています。地理的には河北省と黒竜江省に集中して分布しているのが特徴です。
三国時代の才女・甄宓
生い立ちと才能
甄宓（ゼンミ）は西暦182年、河北省の名家に生まれました。幼い頃からその聡明さで知られ、わずか9歳で読み書きができるほどの才女でした。彼女の作品『貞皇后詩選』は現在も残されており、その文学的才能の高さを物語っています。
「三国一の美女」と呼ばれた美貌
甄宓はその類まれな美貌で「三国一の美女」として広く知られていました。その美しさは曹操のライバルである劉備からも「洛神」と称されるほどでした。洛神とは、古代中国の伝説に登場する美しい女神のことで、聡明で才能があり、人々を魅了する存在として語り継がれています。
三人の英雄を魅了した女性
甄宓の美貌と才能は、三国時代の英雄たち－曹操、曹丕、曹植の三人を虜にしました。特に曹植は、古代の名作『洛神賦』を著し、甄宓の美貌と気質を詩的に描写しました。この作品は中国文学史上の傑作として現在も高く評価されています。
波乱に満ちた人生
二度の結婚
甄宓は最初、袁紹の次男である袁熙と結婚しました。建安4年（199年）、夫が汝州総督となりましたが、甄宓は袁紹の妻・劉夫人に仕えるため、夫には同行せず鄴城に留まりました。
広告
運命の出会い
建安9年（204年）、曹操軍が鄴城を占領した際、曹丕は袁紹の屋敷で髪を束ね、顔を汚して劉夫人の後ろに隠れて泣いている若い女性を発見しました。それが甄宓でした。曹丕が彼女の髪を解き、ハンカチで顔を拭うと、その美しさが現れ、劉夫人は「これで殺される心配はない！」と安堵したといいます。
皇后への道と悲劇的な結末
曹丕は甄宓を深く寵愛し、彼女は息子と娘を産みました。220年10月、曹丕が皇帝に即位すると、甄宓は皇后としての地位を得ました。しかし、山陽公の劉協から献上された二人の娘が曹丕に優遇されるようになると、甄宓は嫉妬と失望から恨みの言葉を口にしてしまいます。
これに怒った曹丕は、221年に使者を遣わして甄宓に死を命じました。こうして39歳の若さで、この才色兼備の女性は悲劇的な最期を遂げることになったのです。
文昭皇后としての名誉
死後、甄宓は「文昭皇后」として追尊され、魏の明帝曹叡の実母として歴史にその名を刻みました。彼女の生涯は、三国時代の政治的混乱の中で翻弄された一人の女性の物語として、後世に語り継がれています。
甄宓の物語は、美貌と才能に恵まれながらも、時代の波に翻弄された女性の悲劇として、中国史上最も印象深いエピソードの一つとなっています。彼女の名前は、甄姓の歴史の中でも特に輝かしい一章を飾っているのです。
