言葉の意味を初めて知った瞬間
「うだつが上がらない」「うだつが上がる」という言葉は、日常会話でよく耳にしていました。なんとなく「パッとしない」「成功しない」といった意味で使っていたものの、そもそも「うだつ」とは何なのか、実はよく分からないままでした。
それが小樽の街を歩いているときに、初めて実物を目にしたのです。
うだつとは何か
うだつとは、建物の両側に張り出した袖壁のことです。隣家との境界部分に設置される防火壁としての機能を持ちながら、同時に装飾的な役割も果たしていました。
しかし、このうだつの設置には多額の費用がかかりました。そのため、うだつを上げることができるのは経済的に余裕のある家だけ。つまり、うだつは富や成功の証として機能していたのです。
ここから「うだつが上がらない」(経済的に成功しない、出世しない)という慣用句が生まれたというわけですね。
小樽という舞台の意味
小樽でうだつを初めて見ることができたのは、決して偶然ではありません。
小樽は明治から昭和初期にかけて、北海道経済の中心地として大いに栄えた都市でした。石炭の積出港として、また金融業の中心地として、多くの商人や実業家たちが富を蓄積していった場所です。
運河沿いの倉庫群、石造りの銀行建築、ニシン漁業で栄えた商家の建物に見られるうだつ。これらすべてが、石炭、金融、そしてニシンという三つの産業によって支えられた小樽の黄金時代を物語る証拠なのです。
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建築に込められた想い
うだつを実際に見てみると、単なる防火壁以上の意味があることが分かります。精巧な装飾が施されたものも多く、家主の美意識や社会的地位を示すシンボルとしての側面が強く感じられます。
現代のように看板や広告で商売をアピールすることのなかった時代、建物の外観そのものが、その家の格式や財力を表現する重要な手段だったのでしょう。
言葉と実物が結びついた瞬間
小樽の街角でうだつを見つけたとき、長年疑問に思っていた慣用句の意味が、ようやく腑に落ちました。言葉の背景にある歴史や文化を、実際の建物を通して体感できる。これこそが旅の醍醐味の一つだと思います。
現在でも小樽の歴史的建造物の中には、当時の繁栄を偲ばせるうだつを見ることができます。次に小樽を訪れる際は、ぜひ建物の上部に注目してみてください。きっと新しい発見があるはずです。
おわりに
一つの建築要素から、その土地の歴史、文化、そして言葉の成り立ちまでを知ることができる。小樽で出会った「うだつ」は、日本の豊かな文化的背景を改めて実感させてくれる、貴重な体験となりました。
「うだつが上がる」ような成功を収めた先人たちが、今も小樽の街に息づいているのを感じています。