> ※この記事は、「[玉圭・璧・鉞]」で見た圭(けい)——諸侯を封じるしるしの玉器——についての物語です。
ドラマ『大宋宮詞』26話で語られる故事「桐葉封弟(とうようほうてい)。一枚の桐の葉が玉圭の代わりになり、子どもの戯れの一言が、一国を生んだ——「天子の言葉は、どれほど重いか」という話です。
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「桐葉封弟」の故事——一枚の葉が、国を生んだ
物語は『史記・晋世家』に伝わる、西周のはじめ(紀元前十一世紀ごろ)の出来事です。
幼い成王(せいおう)——周を建てた武王の子で、まだ年端もいかぬ王——が、弟の叔虞(しゅくぐ)と遊んでいました。成王は戯れに桐の葉を切り取り、諸侯を封じる印である玉圭(ぎょっけい)の形にして、弟に手渡します。
「これをお前に授けて、王に封じよう。」
子どもの、無邪気な遊びの一言でした。ところが——これを聞きつけた史官(記録係。史佚〔しいつ〕、一説に周公とも)は、これを正式な発言として書き留め、王に「吉日を選んで、叔虞さまを封じる儀式を」と進言します。成王は驚いて言いました。「あれは弟と戯れに言ったまで。本気ではない。」すると史官は、毅然と答えます。
> 「天子に、戯言(ぎげん)なし。」
天子の口から出た言葉は、史官が記し、儀礼がこれを成し、楽人がこれを歌う——だから、軽々しい冗談などあってはならない、と。成王はこの諫めを容れ、約束どおり、叔虞を唐(とう)の地に封じました。これが「唐叔虞(とうしゅくぐ)」——のちの大国晋(しん)の、開祖です。
一枚の桐の葉から生まれたこの晋は、のちに家臣に三分割され(三家分晋)、趙・魏・韓という戦国の国々になります。
あの「[和氏の璧]」を守った趙も、「[信陵君]」の魏も、もとをたどれば、この子どもの戯れの一言にたどり着く。
桐の葉一枚が、数百年の歴史を生んだ——そう思うと、この小さな故事が、にわかに大きく見えてきます。
もう一つの読み方——柳宗元の評論
ただ、この故事には、後世から鋭い「待った」がかかっています。唐の文人柳宗元(りゅうそうげん)が書いた「桐葉封弟辨(べん)」(その故事について議論考察する)という一文です
柳宗元は、こう疑います。もし弟が、王にふさわしくない人物だったら? 戯れの一言だからと、それでも無理に国を与えるのが正しいのか?
王を縛るべきは「うっかり口にした言葉」ではなく、「何が正しいか(道)」のはずだ——と。つまり、「天子に戯言なし」を、絶対視することへの、批判です。
> —「信」と「道」のあいだ
「言ったことは、何があっても守る(信)」べきなのか
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「間違った約束なら、正すのが筋だ(道)」なのか
桐葉封弟は前者を、柳宗元は後者を説きます。どちらも正しい。だからこそ、為政者は迷う。——
けれど、少なくとも一つ言えるのは、上に立つ者の言葉が「軽い」と知れた瞬間、下の者は何も信じられなくなる、ということです。
柳宗元でさえ、「君主が軽々しく戯れてよい」とは言っていません。問題は「言ったことを守るのか・間違えならば正すのか」であって、「最初から軽く扱ってよい」ではないのです。
大宋宮詞26話——趙恒が、弟に差し出した故事
この故事が、ドラマ『大宋宮詞』26話で、印象的に使われます。
主人公は、北宋の三代皇帝・趙恒(ちょうこう=宋真宗)。彼の弟冀王(きおう)は、謀反の疑いをかけられていると思い込み、絶望のあまり、わが子を手にかけて自らも死のうとする——その騒ぎを聞きつけた趙恒が、まさにこの「桐葉封弟」の故事を持ち出して、弟に語りかけるのです。
趙恒が伝えたかったのは、お前との兄弟の情を感じている、子どもの戯れすら本物にした成王のように、ということでなかったでしょうか。
> 趙恒という人 この趙恒(宋真宗)は、このブログでは、なじみ深い皇帝です。遼の[蕭燕燕]と「[澶淵の盟]」を結び、その後ろめたさから壮大な「[天書降臨]」の儀式を演出し、そして稀代の女傑[劉娥]を皇后にした、あの人です(『大宋宮詞』は、趙恒と劉娥を主役にしたドラマでした→「[黄帝の子孫]」)。澶淵で「言葉(盟約)」を重んじ、天書で「天の言葉」を演じた趙恒が、弟には「天子に戯言なし」と真心を説く——「言葉と信頼」は、彼の生涯を貫くテーマだったのかもしれません。
まとめ——玉圭の重み、言葉の重み
桐葉封弟が二千年語り継がれてきたのは、ただの美談だからではありません。上に立つ者の言葉は、本人が思うよりずっと重い
たとえ素材が一枚の葉でも、それが玉圭の形をとり、天子の口が「封じる」と言えば、もう取り消せない。
圭という玉器が「統治を授ける権利」のしるしだったように(→「[玉圭・璧・鉞]」)、天子の言葉そのものが、形を持った権力になるということです。
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