菊に込められた心情
『宮廷の諍い女(甄嬛伝)』において、沈眉荘が皇帝に「なぜ菊が好きなのか」と問われた時、
彼女は南宋の詩人・鄭思紹の『寒菊』から一句を引用して答えました。
「寧可枝頭抱香死 不曾吹落北風中」
(むしろ香りとともに枝の上で死に、冷たい北風に吹き倒されることはない)
この詩の全文は以下の通りです:
花开不并百花丛,独立疏篱趣未穷。
宁可枝头抱香死,何曾吹落北风中!
秋に咲き、決して他の花と一緒に咲かない菊。
まばらな垣根の傍らで、その感傷は尽きることがない。
むしろ香りとともに枝の上で死に、冷たい北風に吹き倒されることはない!
菊の自然な性質は沈眉荘の心情と随所で重なり合い、「香りを抱く」は彼女の高貴な感情の比喩となっています。
皇帝が愛した菊の性質
雍正帝は菊の「他の花と争わない」性質を好みました。
しかし、この皇帝の好みこそが、後に沈眉荘の悲劇を予見するものでもありました。
宮殿に入ったばかりの沈眉荘は、最も早く寵愛を得ていました。
しかし、後宮での寵愛競争の中で、彼女は理由もなく濡れ衣を着せられ、
危うく命を落とすところでした。そして、彼女の価値観は完全に打ち砕かれました。
かつて自分に優しく思いやりを示してくれた雍正帝は、
他人から濡れ衣を着せられた彼女を後宮の争いから守ることができず、
それを反省するどころか、沈眉荘の潔白すら信じようとしませんでした。
心は死んでも理性的に高貴に生きる
皇帝に幻滅し、心が死んでしまっても、沈眉荘は生き続けなければなりませんでした。
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宮中に入った瞬間から、彼女は一人の個人ではなく、沈氏一族を背負う存在となっていたからです。
詩の通り、冷たい北風に晒されても、彼女は誇り高く理性的に生きました。
皇太后に尽くすことに存在意義を見出しながらも、
同時に皇帝に再び甘えることを拒否しました。
ウェン医師との真実の愛
沈眉荘がウェン医師に心を寄せた理由は、彼の愛に対する態度にありました。
甄嬛が何を望もうと、ウェン医師は彼女のためにそれを実現しようとしました。
結婚を求めてもかなわなかったにもかかわらず、彼は自分の医療技術を使って宮中で甄嬛を守り、
何度も彼女を助けました。
このような献身的で深い愛が、沈眉荘の愛に対する想像力を掻き立てました。
ウェン医師の愛は、ありふれた愛ではありませんでした。
彼女は衝撃を受け、皇帝の薄っぺらく偽りに満ちた愛と比較せずにはいられませんでした。
最後の抵抗
ウェン医師の子供を身ごもった沈眉荘は、
子供の父親を皇帝にするために、皇帝に頭を下げました。
皇帝は喜んで彼女と関係を持ちました。
そして最終的に、彼女は最愛の男の腕の中で息を引き取りました。
彼女の皇帝に対する最後の抵抗は、本当に愛する男の結晶を手に入れたことでした。
菊のように、他の花と争うことなく、
しかし自分の香りを失うことなく、最期まで誇り高く生きた沈眉荘。
彼女の生き様は、まさに「寧可枝頭抱香死」の詩句そのものだったのです。