ドラマ『燕雲台』は、遼王朝を舞台にした歴史ドラマです。草原の遊牧民が建国した遼王朝の特殊な政治システムを理解すると、ドラマの複雑な人間関係や権力闘争がより深く楽しめます。
草原の民とは
草原の民は元来、各部族が自由に草原を移動しながら家畜を追って暮らしていました。彼らの特徴は:
- 騎馬と弓術に優れた戦士たち – 馬に乗って弓を射ることが得意
- 女性の力も強い社会 – 一族を率いていた主人が亡くなった後、妻が一族を率いることもありました
- 生存のための戦い – 一族が草原で生きていくために、狩猟や戦争を行いました
戦争の本質 – 生存をかけた交易
草原の民と農耕民の関係は、単純な敵対関係ではありませんでした。
普段は狩猟産物と農産物を貿易のような形で交易していましたが、気候の変動などによって家畜が死んでしまったり、狩猟がうまくできなかった場合、途端に飢えに直面します。
そのとき一族が生きていくために、力ずくの交易、すなわち定住した農耕民の部落に行って略奪のような事をしなくてはなりませんでした。これが「戦争」の実態だったのです。
農耕民を取り込む – 帝国への変貌
最初は収穫した農産物を取り上げていましたが、やがて効率的な支配方法を編み出します。
いちいち略奪しに行くのも面倒なので、農耕民や器具を作る職人を連れてきて領内に定住させることにしました。そして都市も作ることになりました。
特に重要だったのが、二代皇帝の時に手に入れた燕雲十六州です。漢人の多く住むこの地域を手に入れたことにより、食料が安定して手に入るようになりました。
部族長の選び方 – 民主的な選出
草原の民の政治システムは独特でした。
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部族長は、部族の中で「この人がリーダーになってほしい」とみんなが言った人が選ばれました。
大部族長(全部族の代表)は、部族長たちの話し合い、いわゆる選挙によって決められていました。
大部族長から皇帝へ – でも権力は分散
耶律阿保機は大部族長として多くの部族をまとめ、その後皇帝を名乗りました。
しかし、皇帝といえども各部族長や皇族の権力が強く、それぞれの部族長はそれぞれのオルド(兵隊や財産)を持っていました。
特殊な皇位継承システム
一代目から四代目皇帝までは、長子相続ではなく、耶律阿保機の3人の息子の系統から合議(実質的には闘争)で決まりました。
草原の民ですから、強い者に従うという気風があったからです。
中央集権化 = 権力の奪い合い
皇帝の権力を高めるということは、各部族長が持っていた兵隊や財産を奪って自分のものとする過程でした。
ドラマ『燃雲台』の核心 – 三姉妹と権力闘争
ドラマでは3姉妹がそれぞれ有力な皇帝候補のところに嫁ぎます。
三女の夫が皇帝となるわけですが、中央集権を進めるにあたって、長女・次女の夫を粛清しなくてはいけませんでした。
これは単なる権力欲による粛清ではありません。皇帝が真の権力を握るためには、他の有力な部族長(この場合、義兄たち)が持つオルド(軍事力と財産)を奪う必要があったのです。
三姉妹の悲劇は、草原の民から中央集権国家への移行という歴史の大きな流れの中で生まれた、避けられない対立だったのです。
このような背景を理解すると、ドラマの中の複雑な人間関係や、なぜ身内同士で争わなければならなかったのかがより深く理解できるでしょう。



