娘からの一言
「お母さん、塩分制限したほうがいいんじゃない?」
嫁に行った娘が久しぶりに帰ってきて、家族で食卓を囲んだ時のことでした。
娘のこの何気ない一言が、私にハッとした気づきをもたらしました。
確かに最近、家で作る料理の塩味が以前より強くなってきたかもしれない。
そんな風に感じていた矢先の出来事でした。
年齢と味覚の変化
調べてみると、年齢を重ねると味を感じにくくなるのは科学的事実だそうです。
- 塩味:若い頃の2.8倍の量が必要
- 甘味:若い頃の2〜3倍の量が必要
この数字を知った時、亡くなった母との日々を思い出しました。
母との食事の記憶
出汁の旨味を効かせた薄味の味噌汁を出したところ、
母から「顔を洗ったようなものを出された」と言われたことがありました。
当時の私には理解できませんでしたが、今なら母の気持ちが分かります。
スーパーで買う塩鮭も、甘塩表記のものではダメでした。
わざわざしょっぱいものを探して買い、焼く前にさらに塩を振ってから出したこともありました。
私は娘だったからまだよかったけれど、高齢の義父母と暮らすお嫁さんの苦労を思うと、
本当に大変だろうと感じます。
甘味への渇望
母には「何を食べても美味しくない」とよく言われました。
お取り寄せの美味しいお菓子を試してみても、「こんなまずいもの」と激昂されることがありました。
その激昂が止まらず、やむなくお店に抗議の電話をさせられたことも。
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お店の方、その時は本当にごめんなさい。
結局、めちゃくちゃ甘いお菓子を出してようやく「甘くなくて美味しい」と言ってもらえました。
母にとっての「甘くない」は、私たちの感覚とは全く違っていたのです。
高齢者が不機嫌になる本当の理由
年配の方がクレーマーになりがちなのは、
もしかすると味覚の衰えが大きく影響しているのかもしれません。
高齢になると:
- 噛む力が衰える
- 唾液の分泌が減る
- 口の中で食べ物がうまくまとまらない
- 味蕾細胞が減少する
食べ物が唾液でしっとりしないため、味を感じにくくなります。
さらに味蕾細胞の減少が追い打ちをかけます。
病気という制約
満足のいく味付けをしたくても、現実は厳しいものがあります。
- 糖尿病があれば、砂糖を思うように加えられない
- 腎臓病があれば、塩を思うように加えられない
体が求める味と、健康上必要な制限の板挟みになってしまうのです。
オバマ大統領のエピソード
若い頃のオバマ大統領が
高級老人ホームでウエイターのアルバイトをしていた時の話を聞いたことがあります。
お金があっても、入居者の病気のために本人が満足するような食事を提供することができず、
随分と難しい対応を迫られたそうです。
今思うこと
娘からの何気ない指摘をきっかけに、年を重ねるということの複雑さを改めて感じています。
味覚の変化は自然な老化現象ですが、それを理解せずにいると、家族間で誤解が生じてしまいます。
母との日々を振り返ると、もっと母の立場に立って考えてあげられたのではないかと思います。
これから年を重ねていく私自身も、娘に同じような思いをさせるかもしれません。
でも今回のことで、お互いの変化を理解し合うことの大切さを学びました。
年を取るということは、単に時間が経つだけではなく、体の様々な機能が変化していくということ。
それを受け入れ、支え合いながら生きていくことが、家族の絆を深めるのかもしれませんね。