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清朝皇帝の書から学んだこと – 「書は人なり」を超えて

上野で出会った皇帝たちの筆跡

2022年9月、上野の博物館で開催された中国清朝皇帝の書の展示を訪れる機会に恵まれた。

「書は人なり」という言葉を胸に、歴代皇帝たちの筆跡を間近で観察した時の印象は、

今でも鮮明に覚えている。

ホンタイジの書

興味深かった。中華的な書法には不慣れな様子が窺えたが、

それでいて荒々しい迫力に満ちていた。満洲族出身である彼らしい、野性的な力強さを感じた。

康熙帝の書からは、

力強い勢いが伝わってくる。まるで筆を握る手に込められた意志の強さが、

そのまま紙面に現れているようだった。

雍正帝の書は、

真面目でしっかりとした書体が印象的だった。

几帳面な性格がそのまま文字に表れているようで、彼の治世の特徴とも重なって見えた。

乾隆帝の書は、

まさに美しく流れるような筆致で、整然としていた。

しかし同時に、線の細やかさから、彼が非常に繊細で細かい性格の持ち主なのではないかと感じられた。

西太后の書は、

知的な印象というよりも、太くてどっしりとした存在感のある文字だった。

権力者としての威厳を感じさせる筆致だった。

それぞれの個性が書に表れていて、まさに「書は人なり」だと思いながら展示を後にした。

筆跡研究所の言葉との出会い

しかし、帰宅後にふと目にした筆跡研究所の言葉が、私の考えを大きく揺さぶった。

「書は人なりなどと言いますが、書は書いた人の性格を表すのではなく、書いた人の行動スタイルを映し出すものです。」

筆跡研究所より引用

この言葉にハッとさせられた。

確かに、私が見た皇帝たちの書は、彼らの個人的な性格というよりも、

それぞれが置かれた時代状況や立場に応じた「行動スタイル」を反映していたのかもしれない。

時代背景から読み解く書のスタイル

改めて時系列に沿って考えてみると、それぞれの書体が時代の要請と深く結びついていることが見えてくる。

**ホンタイジ(1592-1643)**は、満洲から中国に侵入し、清朝の基礎を築いた人物である。

中華的な書法に不慣れな様子が窺えたあの荒々しい筆致は、

まさに征服者としての行動スタイルの表れだったのだろう。

伝統的な中華の書法よりも、力強い意志と野性的なエネルギーを表現する必要があった時代だったのかもしれない。

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**康熙帝(在位1661-1722)**は、三藩の乱を平定し、中国での清王朝の基盤を固めた皇帝である。

あの勢いのある書体は、まさに内乱を鎮圧し、王朝の安定を築く過程での強いリーダーシップの現れだったのだろう。

中華世界での正統性を確立するために、

力強さと決断力を示す行動スタイルが求められていたのではないか。

**雍正帝(在位1722-1735)**は、中央集権化を進め、財政基盤を整えた改革者である。

あの真面目でしっかりとした書体は、

まさに行政改革に取り組む実務家皇帝としての行動スタイルの表現だった。

几帳面で規律正しい統治を実現するために、文字にもその姿勢が反映されていたのだろう。

**乾隆帝(在位1735-1796)**の時代は清朝文化の最盛期にあたる。

中華文明の担い手としての皇帝の威厳を示すために、美しい紙に行書で流麗に書くスタイルが重視されていた。

あの繊細で美しい筆致は、彼の個人的な性格というよりも、

文化的最盛期の皇帝として求められた行動スタイルの表れだったのだろう。

そして**西太后(1835-1908)**が生きた時代は、清朝末期という激動の時代だった。

列強諸国の圧力にさらされ、王朝の存続すら危ぶまれる中で、

彼女はあえて気丈で重厚に振る舞う必要があった。

あの太くてどっしりとした書体は、衰退していく王朝を支える強い意志の現れ、

つまり時代が要請した行動スタイルの表現だったのである。

「書は人なり」を超えて

この気づきは、書道に対する見方を大きく変えてくれた。

書は確かに書き手を映し出すが、それは単純な性格の反映ではない。

その人が置かれた状況、果たすべき役割、時代の要請などが複合的に作用した結果としての

「行動スタイル」が表れているのだ。

清朝皇帝たちの書を通じて、「書は人なり」という古い格言に新しい解釈を加えることができた。

書は人の内面を映すが、それは固定的な性格ではなく、その人がその時代にどのように行動し、

どのような役割を果たそうとしていたかを物語るものなのである。

上野での展示見学は、単なる美術鑑賞を超えて、歴史と人間理解についての深い学びの機会となった。

筆跡研究所の言葉に出会わなければ、この洞察には至らなかっただろう。

時として、私たちの固定観念を揺さぶる一言が、新たな理解の扉を開いてくれるものである。

 

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